
佐伯は広告代理店のやり手営業部長。
50歳、根っからの仕事人間。
仕事では大きな契約をまとめ、プライベートでは娘の結婚が決まり、まさに順風満帆だったのだが・・・。
目眩と頭痛と不眠に悩まされている。
そして物忘れ・・・人の名前が思い出せない。
ある日、不眠治療のため訪れた病院で『若年性アルツハイマー』の診断を受ける。
いつかは全てを忘れてしまうんだという恐怖と、自分はまだまだ大丈夫だと信じたい自尊心。
錯乱し自暴自棄になる佐伯。
会社の関係者にも娘にさえも誰にも病気のことを知られたくないと思う心。
佐伯は他人に気づかれないために涙ぐましい努力を続ける。
出来るだけの事をメモに書きとめる。
メモをなくさないために、いつでも見られるように、メモはポケットに入れる。
ポケットのメモはどんどん溜まる一方であり、それを管理することさえ難しくなる。
そして、ついに佐伯は退職する。
そんな彼を救ったのは陶芸と家族だった。
妻が分からなくなる日はやってくるのか。
最後はつり橋で女性と出会うシーンで終わる。
著者は
「記憶を失うということは、どういうことなのか?
その答えを求めて、この物語を書き始めました。」
と言っている。
佐伯の言葉、
記憶が消えても、私が過ごしてきた日々が消えるわけじゃない。
私が失った記憶は、私と同じ日々を過ごしてきた人たちの中に残っている。
そんな風に考えられようになるまでには、どれだけの苦しみを乗り越えたことか・・・。
佐伯の焦燥感、混乱、錯綜など複雑な揺れ動く気持ちが丁寧に描かれている。
読んでいると苦しくなるほど。
面白かったし、考えさせられた。
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