2010年2月24日水曜日

チルドレン by 伊坂幸太郎


この本は5編の短編小説で構成されている。
 
《バンク》
大学生の陣内、鴨居と盲目の長瀬との出会いの物語。
偶然にも銀行強盗の人質となった3人。
14人の人質は何度かに分けて全員が開放され・・・そして銀行内には誰もいなくなった。
犯人さえも!



《チルドレン》
家裁調査官になった陣内とその後輩の武藤の物語。
ある日、武藤は万引犯の高校生とその父親の面接をした。
この親子関係には何か問題がある。
その問題とは何か?
後日、この少年は誘拐され・・・。

《レトリバー》
失恋した陣内と長瀬、長瀬の恋人・優子の物語。
舞台は仙台駅前。
陣内は、
  「失恋した俺のために、今、この場所は時間が止まっている。」
と言い出す。
恐喝、張り込み、少女売春を絡めた作品。

《チルドレンⅡ》
家裁調査官の陣内が試験観察中の少年・明。
彼は自分の父親のことを『いつもペコペコ頭を下げているダサいヤツ』と思っている。
陣内は彼なりのやり方で、そんな親子関係に『奇跡』を起こす。

《イン》
クマの着包みを着てバイト中の陣内の物語。
この短編の中で、陣内がいかにして自分の父親との関係を割り切ったかが明らかにされる。

伊坂幸太郎の小説には痛快な人物が登場する。
この本に登場する陣内という男も・・・
  理屈にならない理屈で人を困らせる
  『立ち向かうこと』が基本方針
  逆さ吊りにしたら「失礼」と「無遠慮」が出てくる
  根拠の無い断定をする
  根拠の無い出鱈目な話をする
  奇人変人の常識知らず
  世の中の面倒なことを跳び越している
  思い立ったら誰に予告することもなく、すぐさま行動する
  何でもかんでも勝手に断定し、それが誤っていても間違いを認めない
  意味不明で出鱈目な主張をする
  自分の発言に責任を持たない
  面倒くさがり
  妙なたとえ話で相手を煙に巻く
  陣内に太鼓判を押されると余計に不安になる
  陣内が「絶対」というたびに絶対の価値は下落する
・・・と言った具合。

直情怪行、メチャクチャだ。
遠巻きに見ている分には面白いが、身近にいたら迷惑この上ない。
でもカッコいい!
真似したくなるけど、真似をしたら痛い目にあうだろうなぁ。

2010年2月18日木曜日

新参者 by 東野圭吾


舞台は江戸の匂いが色濃く残る日本橋界隈。
この街の一角で40代の女性・峯子の絞殺遺体が発見された。
峯子はなぜ殺されなければならなかったのか?
日本橋署に着任したての刑事(=新参者)加賀恭一郎が事件の謎を解き明かす。




煎餅屋に出入りしていた保険外交員
わさび入りの人形と料亭のおかみ
夫婦箸を買おうとした瀬戸物屋
散歩道で顔見知りの時計屋
友人であり第一発見者でもある翻訳家
通い詰めていた洋菓子店
清掃会社社長の元夫
劇団員の息子
元夫の後輩の税理士

一見、事件とは何の関連もない些細な証言が、加賀によって一つに纏められていく様は見事!!
伏線の張り方とその回収の仕方・・・さすが東野圭吾!
前半は人情モノ???と思ったけれど、佳境に入ってからは文字を追うものもどかしいくらいハラハラドキドキ。
読み終えたとき、なぜかホッとした。

加賀恭一郎の言葉・・・
  「捜査もしてますよ、もちろん。
   でも、刑事の仕事はそれだけじゃない。 
   事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、
   その人だって被害者だ。
   そういう被害者を救う手立てを探し出すのも、
   刑事の役目です。」

2010年2月17日水曜日

植物図鑑 by 有川浩


ある日、道端に落ちていた彼(イツキ)。
  「お嬢さん、
   よかったら俺を拾ってくれませんか?

   咬みません。
   躾のできた、よい子です。」
の言葉で、さやかとイツキの同居生活が始まる。

さやかが知っているのは『イツキ』という名前だけ。

さやかはそれで充分だった。
でも、そんな生活がいつまでも続くはずもなく…。


イツキは野草オタク、さかやは野草オンチ。
イツキはさやかに野草の名前、その料理方法を伝えていく。


  『雑草という名の草はない。
   すべての草には名前があります。
   by 昭和天皇』

  『別れる男に花の名を一つは教えていきなさい。
   花は毎年必ず咲きます。
   by 川端康成』

本の中に登場するフレーズ。
印象的だった。

途中、野草と料理の話で冗長感があるものの、後半1/3はウルウル涙もの。
ほのぼの、ホロッとする甘~いラブストーリー。

有川浩は恋愛小説の名手です。

2010年2月14日日曜日

君たちはどう生きるか by 吉野源三郎


中学生のコペル君の精神的成長記。
各章末ごとに大学を卒業したばかりの叔父さんがコペル君へのメッセージをノートに綴る形で物語は進行する。
『コペル君の日々の体験を通して、自分と自分を取り囲む世界との係わりを考えよう!』
というのがこの本の主旨(だと思う)。
40年以上読み継がれてきた永遠のベストセラーだし、一度は読んでおかねば…と読み始めたものの、途中で挫折。
あまりにもマトモ、道徳的過ぎて、天邪鬼(あまのじゃく)の私には受け入れられなかった。

自分では読めなかったけど、子供には読ませたい。
で、感想を聞きたい。
身勝手な母。

2010年2月11日木曜日

ウランバーナの森 by 奥田英朗


著者はあとがきの中で
『本書を、心に傷を持ったある中年男性の再生の物語として読んでいただければ幸いである。』
と述べている。
が、これは明らかに誰が読んでもジョン・レノンをモチーフにした物語だ。
ただし、フィクション。
息子ショーン・レノンが生まれてからの4年間、ジョンは専業主夫に徹し、隠遁生活を送っている。
ジョンに関して書かれた本でも、この期間の彼の行動についてはほとんど記述がないという。



この本は、その期間に焦点をあて、
  ジョンの便秘
  謎めいた『アネモネ医院』
  ジョンとの因縁浅からぬ亡霊たち
  日本のお盆
という要素を絡めながら、ジョンの空白の4年間を勝手に埋めようという試みをしている。
ウィットとユーモア・・・あくまでフィクション。

ちなみにウランバーナとは・・・
サンスクリット語で苦しみという意味。
これが盂蘭盆(うらぼん)=お盆の語源。

この話、ちょっと羽目をはずし過ぎの感あり(メチャクチャだ!)。
でも、これはこれでいいのかなぁ・・・って気もする。

真面目なジョン・レノンの伝記が読みたくなった。

2010年2月6日土曜日

福音の少年 by あさのあつこ


小さな地方都市で起きたアパート全焼事故。
同級生の少女・藍子が焼死体で発見された。
アパートはなぜ焼かれたのか?
元ボーイフレンドの明帆と幼馴染の陽が真相を解明していく。
この2人の少年の心に巣食う闇の部分がこの話の伏線。
ここに元新聞記者の桜庭が加わり・・・。



キーは、
  少女売春
  売り出し中の議員
かな?

なんとなく先が気になって一気に読んでしまったが、面白かったかと聞かれたらNO!

私には二人の少年の心がいま一つ掴みきれなかったし、終わり方がすっきりしなかった。
余韻が残る終わり方という感じでもないし。

だいたい、題名がなんで『福音の少年』なのか?
さっぱり分からない。

2010年2月4日木曜日

神様のカルテ by 夏川草介


栗原一止は本庄病院(24時間365日対応)に勤務する内科医。
夏目漱石の『草枕』をこよなく愛するはゆえ、話しぶりは古風。
酔うとボロッと言ってはいけない本音を漏らす。
口が悪くて、身だしなみも適当で、変なしゃべり方でなんだか難しいことばばっかり使って何を言っているのかわからないことがたくさんあるけれど、患者さんのことだけはとても真剣に考えている。
さらに、山岳写真家の妻・ハル(榛名)を愛している。
優しい優しい心をもつお医者さん。
でも感情表現が下手で無骨な感じ。

安曇おばあちゃんの手紙・・・泣けた。
  『病の人にとって、もっとも辛いことは孤独であることです。
   先生はその孤独を取り除いてくださいました。
   たとえ病気は治らなくても、生きていること楽しいと
   思えることがたくさんあるのだと教えてくださいました。
   ・・・・・・・
   先生のおかげでこんなにも楽しい時間を過ごせました。』

作品中に散りばめられたウィットとユーモア。
選りすぐられた言葉。
この人の文章は大好き!

とっても心温まる話なんだけど、ちと盛り上がりにかけるかも。